「フォーティンブラス」とは、シェークスピアの代表作ハムレットの中に登場するノルウェーの王子の名前です。物語の中では、フォーティンブラスの父親がハムレットの国デンマークに戦争で負けて、その復讐のために攻め行ってみたところ、既にハムレットの王家は滅んでしまっており復讐する相手は死んでいた…という結末に登場いたします。長いハムレットの物語の中で2回だけ登場するこの「脇役」にスポットライトを当てて、横内謙介が俳優の視点から1990年に書き下ろした作品が、この「フォーティンブラス」です。
この作品は、劇団善人会議(現、扉座)で初演された後、多くの俳優たちによって幾度となく演じ継がれてきました。世界中に数あるシェークスピアの書き換え戯曲の中でも、群を抜いて注目を集めてきた日本の名作です。
どんな人間でも、人は生きていく上で、時には主役になることはあっても、ほとんどの場面は脇役を演じ続けざるを得ない。ましてや俳優は、ほとんど主役になれることなどは無く、ただ主役を夢見ながら生き続けているしかない。その悲哀を、フォーティンブラスを演じる脇役俳優の楽屋や劇場で生き生きと生活する人々の感情を通して描いた傑作です。
今回、この『フォーティンブラス』を、『半神』や『サクラパパオー』、『露出狂』や『奇子』、『黒子のバスケ』、『文豪ストレイドッグス』シリーズなど話題作の演出を数々手掛けてきた中屋敷法仁が演出。主人公フォーティンブラス役にA.B.C-Zの戸塚祥太、そして対立するハムレット役を内 博貴が演じます。
同い年で、共に舞台経験豊富な彼らが演じる脇役と主役。この二人の役者が見つめる「俳優」とは?そして脇役を演じ続けるフォーティンブラス役の俳優が、主人公ハムレット役の俳優に抱く感情とは?どこにもぶつけることのできない俳優の本質に近づいていきます。
ショービジネスに生きる若者たちの汗と涙は、観ている者の心を鷲掴みにすることは間違いありません。
お馴染みの名作『ハムレット』が華やかに上演されている、とある古ぼけた劇場。その楽屋で、売れない役者・羽沢武年が、上演中だというのにヒマしている。彼の役は、ノルウェーの若き王子、フォーティンブラス。
役名は勇ましいが、最初の出番は、芝居が始まって約2時間15分後。それもただ舞台を通り過ぎるだけ。二番目の出番は全ての物語が決着を見た後。のこのこ登場し、最後のまとめをするだけの、いわば「刺身のツマ」。
その上ハムレット役の大スターは、横暴で、陰険で、勝手に芝居を変えるわ、若い女優に手を出そうとするわとタチの悪いことこの上ない。武年ばかりでなく、オズリック役で恵子の恋人である岸川和馬やオフィーリアに抜擢されたバラエティタレント刈谷ひろみさえも、そんな大スターに嫌気が差し、楽屋には一触即発の不穏な 空気が流れている。
そんなある夜、芝居のはねた劇場に、突然不気味な亡霊が姿を現す。亡霊は、自らを「フォーティンブラスの父」だと名乗り、そして武年に向かって言った。
“我が息子フォーティンブラスよ。さあ、今こそその汚れ亡き高潔な血を熱くたぎらせ剣を抜け。そしてその剣に、ハムレットへの復讐を誓うのだ!!”
その言葉にとまどいながらも武年は、亡霊にハムレットへの、そして大スターへの復讐を誓うのだった。
しかし劇場付きの老女優、松村玉代は、亡霊の姿を見て驚いた。この男は、「フォーティンブラスの父」なんかじゃない。昔、玉代が一緒に芝居をしていた俳優の岸川和春……すなわち、オズリック役の岸川和馬の死んだ父親の亡霊だ……しかし何故今頃、和馬の父が亡霊となって、思い出の詰まったこの劇場に……??
果たして武年の復讐の行方は?
そして亡霊が寄せる、この舞台に対する想いとは?